LUPEXローバ | |
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所属 | 宇宙航空研究開発機構 |
公式ページ | https://www.exploration.jaxa.jp/program/lunarpolar/ |
状態 | 開発中 |
目的 | 月の水資源の調査 |
設計寿命 | 着陸後3.5か月 |
打上げ機 | H3ロケット(予定) |
打上げ日時 | 2026年(予定) |
質量 | 350 kg(ローバのみ) |
主な搭載装置 | |
REIWA | 水資源分析計 |
ALIS | 近赤外画像分光装置 |
NS | 中性子検出器 |
GPR | 地中レーダ |
EMS-L | 表層分圧計 |
MIR | 中間赤外画像分光装置 |
SELENE-2(Selenological and Engineering Explorer-2、セレーネ2)は宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が計画している月面探査計画である。過去にはSELENE-B(セレーネB)という名称も用いられた。日本はインド宇宙研究機関(ISRO)と協力のもと、2020年代半ばに月極域探査ミッションの実施を目指しており、このミッションでJAXAはロケットによる打ち上げおよび月面車LUPEXローバを担当することとなっている。ローバの開発は三菱重工が行っている[1]。2022年よりJAXAのプロジェクトとなり[2]、2024年現在は探査機の設計が行われている。2023年時点では2026年の打ち上げが予定されている[3]。
LUPEXローバには2つの目的がある。1つは月の水資源の利用可能性を調査することである。月の水を月面で直接検出した事例はまだなく、またリモートセンシングによって観測された含水率には誤差が大きく正確な値は判明していない。含水率の直接計測ができれば将来の月面推薬製造プラントの規模を決めることができる。月の水を仮に資源として採掘することができれば地球から水を輸送する必要がなくなるため、月面に有人の拠点を設ける際の費用を大きく抑えることができる。さらに有人月着陸を行うアメリカのアルテミス計画にLUPEXが取得したデータを提供することで国際宇宙探査へ貢献することもできる。LUPEXローバの2つ目の目的は重力天体表面探査技術の取得である。LUPEXローバの運用によって得られる知見はJAXAがトヨタと共同開発している有人月面車ルナクルーザーなどに役立てることができる[4]。
1999年、SELENE計画(後のかぐや)のプロジェクト化と同時に、SELENEに続く月探査計画としてSELENE-IIの検討が開始された。これは当時SELENEに搭載予定であった月軟着陸機の次の段階として位置付けられ、月面小型天文台やクレーター中央丘等の地殻深部物質が露出している地域の地質調査を想定し、より高精度な月軟着陸を行うというものであった[5]。
翌2000年8月30日の宇宙開発委員会において、開発リスクの分散のために軟着陸機をSELENE計画から分離するという決定が下された[6]。これを受けて新たに月軟着陸実験のみを行う工学実験機として検討が開始されたのがSELENE-Bである。着陸機と月面車の組み合わせによる月表面探査はこの時から検討が開始された。
2001年にはSELENE-II候補として検討されていた着陸機と探査車を用いた科学探査案がSELENE-Bにマージされた。
その後2004年にSELENE-Bは工学実験機として宇宙工学委員会へ提出されたものの、コストパフォーマンスが問題となり選定されなかった。このため、高精度月軟着陸実証の一部を小型月着陸実験衛星(後のSLIM)として計画から分離し[7]、従来の計画をSELENE-2と改名して推進することとなった。
JSPEC設立後の2007年6月にプリプロジェクト化(フェーズA検討)される。
2011年ごろにはテストフィールド内でローバの傾斜地での登坂性能評価や、ローバの越夜のための熱真空試験が行われていた[8]。
2015年3月31日、JSPECは宇宙科学研究所に統合・解消された。SELENE-2のフェーズA検討はその時点で止まり、月極域探査ミッションのフェーズ0の活動が開始された[9][10]。
2017年12月、JAXAとISROは月極域探査の検討に関する実施取決めを締結した[11]。この中でJAXAは月極域探査ミッションのローバ部分を担当することになった。
2019年9月24日にJAXAとNASAのトップ同士の会合が行われた際の共同声明にはNASAのLUPEXへの参加について協議が行われていることが触れられた[12]。
2019年末にJAXAはプロジェクト移行前審査 (PRR) を行い、2020年1月に国際宇宙探査センター内にプリプロジェクトチームが発足した[13][14]。
2020年12月にLUPEXローバはシステム要求審査 (SRR) を合格した[15]。
2022年1月にLUPEXローバはシステム定義審査 (SDR) を合格[16]、2月にはプロジェクト移行審査が行われ、同年JAXAのLUPEXプロジェクトが発足した[4][2]。
2022年4月、欧州宇宙機関 (ESA) の表層分圧計 (EMS-L) をLUPEXローバに搭載することについてJAXAとESAが合意した[17]。
2023年11月にLUPEXプロジェクトは国際宇宙探査センターから有人宇宙技術部門に移管された[18]。
LUPEXローバはISROが開発した着陸機の上部に載って月面まで運ばれる。月面への軟着陸の後に着陸機から展開し探査を開始する。走行には4脚のクローラを使用し、3.5か月をかけて10km移動する[4][1]。ローバが移動する範囲は、地形が移動可能な傾斜であること、日照の存在、地球との通信などの条件によって左右される。探査は広範囲を網羅する疎観測と水資源が存在する可能性の高い地点での詳細観測に類別される。詳細観測ではドリル(オーガ)を使って1.5mの深さまで掘削し、土壌のサンプルを採取する。採取したサンプルはローバ内部に取り込んで過熱し、蒸発した揮発成分を質量分析器 (REIWA-ADORE) と微量水分・同位体分析装置 (REIWA-TRITRON) で分析にかける[4][14]。LUPEXローバの科学観測機器はJAXAとISROが担当するものの他、NASAとESAもそれぞれ1つずつ提供する。
月面では2週間の昼と2週間の夜が交互に訪れるが、夜間は日照がないため太陽電池による発電が行えない。そのため電力は電池に頼る必要があり、LUPEXローバには世界最高水準の超高エネルギー密度リチウムイオン電池が使用される[4]。月のクレーターには太陽の光が常に当たらない永久影を持つものがあるが、LUPEXローバは越夜技術を使うことにより永久影の探査を行うことが検討されている[4][19]。
2017年以前はSELENE-2の一環で着陸機も日本が開発することが検討されていた。着陸機はいずれのシナリオでも探査車を搭載し月面軟着陸を行うことを基本構成としていた。科学観測としては、中止されたLUNAR-Aで開発された地震計を搭載し月震を観測するとともに、月面の採掘による土壌調査が構想されていた[20]。